ムーンライト・ヴィジョン


 ソファで眠るマーシャルの頬に、カーテンの隙間から差し込んだ青い月の光がひとすじの道を作る。それを空中でなぞって、少し迷ってから、唇の端をそっと指でめくる。白い八重歯は自分のそれよりはいくらか鋭いような気がするけれど、ヴァンパイアの牙とは全くの別物だった。
 ここは魔法のない世界で、ガムボールはキャンディの国の王子様ではないし、マーシャルもヴァンパイアの王ではない。
 だけどガムボールは時々確かめたくなる。マーシャルはガムボールの首筋にキスするのが好きで、時には噛み付くことさえあったから。
「なんだよ……」
 まだ半分眠りの中で溶けたままの声がした。唇に触れたままの手をマーシャルの手が掴んでいる。頬と指の上にまたがって歪んだ光が、流れ出した青い血のように見えた。

2023.8.27
ガムボールにウー大陸の世界の記憶がちょっとだけあるはなし